★第15回 ヨーロッパ治療共同体会議に参加してきました!(2)

プロジェクト・オンブレ

ここからは分科会やワークショップ、セッションを報告していきます。12ステップとの関係についても紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

【感情】 エモーショナル・リテラシー(感情のワークショップ)

「みなさん、ここにペプシがあります。このペプシ、振るとどうなると思いますか? 振っちゃいます! 思いっきり振っちゃいます!」

 ペドロ・ペルデロ氏(プロジェクト・オンブレ・ハエン支部)のワークショップに参加。このペプシは、私たちの感情と同じだと言います。感情を感じることができないと、ペプシと同じように開けた瞬間に爆発してしまう。だから感情を感じ表現する方法を知る必要があるのです。

ワークショップでは、この他にもユニークなワークを織り交ぜながら、私たちの感情がどこから来るのか、どんな構造になっているのかを学びました。ペルデロ氏は、ワークの達人。ぜひ日本でもワークショップを開いてもらいたい!そう思わせる内容でした。

 

 

【12ステップ】 治療共同体と12ステップ

治療共同体 ジョージ・D・レオン


治療共同体研究の第一人者、ジョージ・D・レオン氏(左)とディスカッションをする分科会では、2時間たっぷりQ&Aが行なわれました。中でも私たち日本人にとって興味深かったのは、治療共同体と12ステップの関係です。プロジェクト・オンブレを始め、多くの治療共同体では12ステップを取り入れていません。すでに治療共同体という大きなツールがあるからです。「アメリカの治療共同体では、12のステップを活用しているところがある。治療共同体での12のステップの使用は受け入れられるものなのか、有効的であるのか」との質問(立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程・井上智恵さん。現在プロジェクト・オンブレでセラピスト研修中)に対し、レオン氏は「12ステップはあくまでもツールの一つであり、治療共同体の中心にはなり得ない」と回答。12ステップについて触れるのは、プログラムを終了後に必要であれば利用してもらうというスタンスだと説明していました。

 

これは私がプロジェクト・オンブレで質問したときに受けた回答と一緒です。治療共同体はすでに自助のダイナミクスを活用しているし、利用者は自分が戻る(作る)環境を整えながらプロセスを進めていくので、あえて自助グループに参加する必要がないのです。ただしアフターフォローが必要な人もいるので、その選択肢の一つとして自助グループを勧めるというスタンスでした。

 

今回、この情報を掲載したのは、「12ステップと治療共同体、どちらが優れているか」という議論を提起するためではありません。どちらも有効性は歴史が証明しているし、どちらもあっていいのです。選択肢が一つでも増えれば、それだけプログラムを活用できる人が増えます。12ステップが合わなければ治療共同体を選べばいいし、治療共同体が合わなければ12ステップを活用すればよいのです。

 

でも、プログラム終了後に自助グループなしで生活を続けていけるのか? その疑問をかつて何人かの卒業生にぶつけたことがあります。ある人(クリーン3年)は、プログラムを受ける前にすでに自助グループに通っていました。それでも薬が止まらずプロジェクト・オンブレに来て、プログラムを通し妻子との関係を再構築できたため、「今はこの生活を第一優先にしている」と答えました。ある人(クリーン12年)は「今の生活が充実しているからあまり考えたことなかったけど、やっぱり仲間と話したくなることはある」と答え、時どきOBが参加できる催しに出席しています。またある人(クリーン15年)は、妻の死をきっかけに自分が崩れそうになり、プロジェクト・オンブレに連絡をしてカウンセリングを受けながらボランティアを始めました。

 

大切なのは、自分が必要だと思ったときに利用できる資源が身近にあることです。自助グループでもいい。治療共同体でもいい。その人にあった選択肢を増やしていくことがこれからの私たちの課題だと思います。

 

 

【プログラム評価】 最初の6ヵ月のプログラム離脱率が高い

プロジェクト・オンブレ・マラガ支部がマラガ大学ルイス・バレロ教授と連携して行なったプログラム評価(2008年~2013年)の最新発表では、興味深い結果がいくつかありました。一つは、最初の6ヵ月間のプログラム離脱率が高いこと。継続率は21.6%。中でも仕事を持つ人の離脱率が高いが、同じ人が1年後に来るとプログラムを継続するケースが多々見られるとか。その背景に何があるのか、最初の6ヵ月にどんなプログラムをしていくかが今後の課題になるということでした。

 

それ以外のプロフィールでは、「男性30歳~35歳」「低学歴」「親と同居」「失業」「長いアディクション歴」「10代の使用」「アルコール」「多剤乱用」「夫婦のアルコール問題」「早期離脱症状」などがこの支部のプログラム改変のキーワードに。印象的だったのは、「プログラム評価は、それがいいか悪いかを評価するものではなく、現状に合うか合わないかを評価するもの」というバレロ教授の言葉。「だから利用者だけでなく、その環境やスタッフの状況も合わせて評価する必要がある。そこから次にどうすべきかを見出し、活かさなければ評価する意味はない」。

 

もう一つ興味深かったのは、家族プログラムの評価について。この支部では家族に対し、①導入セミナー(12回)②コミュニケーションのグループ③自助グループの3つのプログラムを実施していますが、いずれに対する評価も、セラピストより家族の方が満足度が高いという結果が出ました。この点について後でバレロ教授に聞くと、「おそらくセラピストの方が、プログラムに対し厳しい評価をするのではないか」とのこと。

 

セラピストたちはプログラムを信じていますが、やはり「もっと、もっと」を求めます。「もっとうまくファシリテートできたのは?」「本当はもっといいやり方があるのでは?」……。そうして振り返り模索するのです。もちろん最善を求めることは大切ですが、これはセラピストがケースに対し変化を求めすぎるのと同時に、セラピストの自己評価の低さの裏返しでもあります。客観的なプログラム評価は、こうした歪みを修正するよい機会にもなるのです。(セラピストは意識してセルフエスティームをアップさせることが必要なのかもしれません)

 

文責:近藤京子