★プロジェクト・オンブレの嘱託医カルメンが重複障害について講演しました!

スペインで研修中の井上智恵さんから、「プロジェクト・オンブレ・アリカンテ支部の嘱託医をしている精神科医、カルメン・ヒメノ氏が日本旅行を企画しているので、この機会にぜひ講演を!」と連絡が入ったのは、5月のこと。アリカンテ支部は、重複障害を持つ人への対応に力を入れている支部です。日本の現場でも対応に苦慮しているので、ぜひそれをテーマにしてほしいと頼むと、即快諾してくださいました。さっそく準備を始め、なんと国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部が協力してくださることになり、あれよあれよと言う間に、薬物依存研究部、治療共同体研究会とプロジェクト・オンブレ・ジャパン設立準備委員会の共同主催で来日講演が実現しました!

 

カルメンは、スペイン・バレンシア州の保健機関などに配置されている嗜癖行動部(UCA)で、長年、治療とコーディネートを担当してきた経験を持ちます。プロジェクト・オンブレ・アリカンテ支部の治療共同体プログラムに嘱託医として関わっているほか、行動障害やパーソナリティ障害を専門とするクリニックにも勤務しています。今回は、通所施設と治療共同体における、統合失調症、双極性障害、うつ、発達障害などの重複障害のアセスメントと治療について語っていただきました。

 

スペインでは薬物の問題を抱えた人に対し、プロジェクト・オンブレのような民間機関だけでなく、自治州を始めとする行政による公的サービスも多くあります。その一つが、プライマリケアを行なう保健センターなどに設置されている嗜癖行動部(UCA)です。自治体により名称や構成は違いますが、バレンシア州には39のUCAがあり、薬物使用者とその他のアディクション問題(アルコール、ギャンブル、タバコなど)を持つ人に対し、無料で治療を提供しています。

 

UCAは日本で言えば、地域生活定着支援センターと精神医療センターを足して割ったような存在です。アセスメントと治療的介入を行ない、治療計画を立てて通所治療を行なうほか、専門治療への窓口の役割も担い、適切な治療・支援機関に結びつけてアフターフォローまでを担当しています。

 

2015年は1万1956人に対応。うち、ハームリダクションを行なうヘロイン使用者は4195人、治療共同体の利用が673人、通所センター1881人、グループホーム50人となっています。このうち、治療計画に治療共同体が含まれている場合、プロジェクト・オンブレ・アリカンテ支部の治療共同体が選択肢の一つになっています。

 

プロジェクト・オンブレ・アリカンテ支部の治療共同体では、通常のプログラムを2つに分けて重複障害を持つ人に対応しています。支援では直面化を避けるほか、いくつかのキーワードが出てきたので紹介します。

 

<重複障害コースを利用する場合>

・衝動と攻撃性のコントロールに問題がある場合

・現在、表に現われている症状がなくても、精神疾患の診断を受けている人

・現在、症状が出ている人

・認知に問題がある

・知的障害がある

 

<作業療法の特徴>

・緊張度が低い

・時間のプレッシャーがない

・作業の難易度が高くない

・開放的な環境

 

<グループワークの特徴>

・ワークショップ形式が多い

・問題解決指向

・造形やロールプレイなど、より参加型。グループダイナミクスを多く取り入れている

・問題を提起し、内省や理論的分析の角度からではなく、解決方法を見つけることや、参加し続けること、セラピストの助言という角度からアプローチする

 

治療共同体(入所)のサービスが無料で受けられる期間は6ヵ月~9ヵ月。その後は通所にてサービスを受けます。公民が連携したサービスについて聞けたのも刺激になりました。

 

★DARS in 大阪で発表してきました!

DARS(Drug Addicts Rehabilitation Supports)の薬物依存者回復支援セミナー『アディクション・トランス・アドボカシー/多様な嗜癖・嗜虐行為からの回復支援の未来予想図 〜オランダ・スペイン・ポルトガル〜』で発表してきました。

 

ここ数年、日本では「ハームリダクション」という言葉が聞かれるようになりました。ポルトガルが2001年に違法薬物の個人使用・単純所持を非犯罪化し社会復帰とセットにしたハームリダクション対策で効果をあげたことが注目されていますが、お隣のスペインはどうなのか?

 

実はスペインでは、70年代に最高裁で「個人使用は犯罪ではない」という判例が出て以来、個人使用と単純所持は非犯罪化する流れができました。その後、公共の場での薬物使用、所持などは市民安全保護法の「違反」に位置づけられ、公衆衛生の問題として扱われています。プロジェクト・オンブレでも、罰金を治療に代替することを選んだ人たちがプログラムを受けに来ていました。残念なことに、2015年の法改正で罰金を治療に代替する仕組みが未成年だけに限られるようになり、スペインの薬物対策は一歩後退してしまいました。

 

窃盗や密売など、薬物にからむ犯罪に関しては、刑法の中に治療に代替する執行猶予の制度や、受刑期間を外部のリハビリ施設で満了するシステムなどがあります。プロジェクト・オンブレは、こうした制度の受け皿となる民間機関の一つになっています。

 

スペインではヘロインの使用が大きな問題になった80年代に、国が薬物対策を立てる前に民間の機関が次々と誕生。90年代以降、公的機関でもさまざまなサービスが受けられるようになりましたが、今でも民間機関が多くの役割を担っています。中でも大きなものが全国に支部を展開する非営利組織プロジェクト・オンブレで、予防から刑務所内治療共同体、ハームリダクションまで、年間のべ1万7000人以上(予防は除く)の薬物・アルコールを始めとするアディクション問題を持つ人とその家族に対応しています。

 

日本では予防一つとっても『ダメ・ゼッタイ』で、使用をした人に対しては、重度の依存になるまで介入するシステムがありません。プロジェクト・オンブレのように、その人の段階や状況に合わせたプログラムを展開できるような仕組みができていってほしい、そんな思いで発表をしてきました。

★第27回嗜癖行動学会京都大会シンポジウムで発表しました!

 10月22日(土)、第27回嗜癖行動学会京都大会現代社会における依存と嗜癖ー回復の多様性を求めて―にシンポジストとして参加してきました! シンポジウムのタイトルは<各国における多様な回復への試み~テーラー・メイドの回復支援~>。まさに「人」に焦点を当てるプロジェクト・オンブレにぴったりのテーマで、「問題は薬物ではなく、『人』に起きている」ことを伝えてきました。

 シンポジストには、ポルトガルからAPDESの精神科医のジョセ・キエロス氏も参加。APDESは、薬物依存者、セックスワーカーなど社会的排除を受けている人たちへの支援や制度の向上を目指し活動している団体で、ハームリダクションも行なっています。ポルトガルの対策の歴史について紹介してくださいました。スペインと似たところも多く勉強になりました。また座長の立正大学法学部准教授・丸山泰弘氏は、ようやく薬物使用の非刑罰化に動き出そうとしているアメリカの流れを、新潟県看護大学保健社会学講師・徐 淑子氏はオランダのハームリダクションについてを、埼玉県精神医療センター副病院長・成瀬暢也先生は日本の現状について講演。各国の事情がわかりとても刺激的なシンポジウムとなりました。

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★平成27年度アルコール・薬物依存関連問題学会合同学術総会で発表してきました!

10月11日~13日に神戸で開催された平成27年度アルコール・薬物依存関連問題学会合同学術総会にて、現在スペインのプロジェクト・オンブレ・グラナダ支部で研修をしている井上智恵さん(立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程)が、一般演題として『スペインのProyecto Hombre グラナダ支部の取り組み‐成人を対象にしたプログラムについて‐』『スペインにおけるアルコール・薬物依存者の特徴-プロジェクト・オンブレ研究所報告より-』を発表しました。

 

発表時間は短かったのですが、質疑応答では積極的なご質問をいただきました。スペインの取り組みについて1人でも多くの方に興味を持っていただき、日本に合わせた形での導入が実現できるようがんばっていきたいと思います。

 

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★第15回 ヨーロッパ治療共同体会議に参加してきました!(4)

井上智恵さん(立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程)がヨーロッパ治療共同体会議の概要をパワーポイントでまとめてくれました。

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★第15回 ヨーロッパ治療共同体会議に参加してきました!(3)

スペインの治療共同体プロジェクト・オンブレ
*マラガの海岸:コスタ・デル・ソル 写真:井上智恵

重複障害、母子プログラム、若者・予防プログラムなどについて報告します

 

 

 

 

 

 

 

 

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★第15回 ヨーロッパ治療共同体会議に参加してきました!(2)

プロジェクト・オンブレ

ここからは分科会やワークショップ、セッションを報告していきます。12ステップとの関係についても紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

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★第15回 ヨーロッパ治療共同体会議に参加してきました!(1)

治療共同体

2015年3月11日~14日、スペインのマラガにて、第15回ヨーロッパ治療共同体会議が開催されました。タイトルは「包括的モデルの取り組み」。プロジェクト・オンブレ協会が主管となり、開催地のマラガ支部が運営を担当。治療共同体研究の第一人者、ジョージ・D・レオン氏の講演とディスカッションを始め、ヨーロッパ各地と南米、イスラエルなどを含む各国の治療共同体メンバーによる分科会が行なわれました。連日400名が参加。どれもこれも見たい!参加したい!しかし時間が重なっているというジレンマの中、いくつかの発表を聞いてきました。

 

 

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