治療共同体は設立当初からあるメソッドの1つで、もともとは重度のヘロイン依存者のためのプログラムとして誕生しました。プロジェクト・オンブレのメソッドである<治療-教育的>介入や自助のダイナミクスの活用もここから始まりました。ヨーロッパ型治療共同体は自由なコミュニケーションとソーシャルスキルを重視し、その人の持つ力を引き出していくこと、利用者と専門家の違いが明確になっていることなどが、階級性を重視するアメリカ型治療共同体との違いだといわれています。入所を含むこのプログラムは現在<ベーシックプログラム>と呼ばれ、多剤乱用者など、一定期間入所し集中的にシラフの生活の立て直しを図ることが必要な人に向けて行なわれています。
■単に薬物をやめるだけでなく、人生プロジェクトを進めるプログラム
プロジェクト・オンブレでは、薬物使用者は「行動・認知・感情・実存」の4つのエリアの成長が滞っている状態と考えます。そのためプログラムでは、実存主義に基づき「今ここ」を大切にしながら、この4つの角度にさまざまな形でアプローチしていきます。プログラムの目的は、その人が主人公となって、人生のプロセスを進めていくこと。つまりこのプログラムは「人生プロジェクト」であり、「生活プロジェクト」なのです。プログラムを通し、各々が自分のプロジェクトを進めていきます。ベーシックプログラムでは家族や友人もプログラムに参加し、動機づけ段階から戻る環境を見据えながらプログラムを進めていくのも特徴の一つです。
■治療共同体はプロセスの一部
ベーシックプログラムにおいて、入所施設としての治療共同体はプロセスの一部です。非常に重要なプロセスではありますが、もっとも長いのは、そこで学んだことを社会の中で実践しながら生活を発展させていく社会復帰段階です。そのため最初のアセスメントの段階から、その人が生きる環境の中でどれだけ生活の質をあげていくことができるかをデザインしていきます。プロセスは3つに分かれています。
第1段階:動機づけ (通所センター)
現在の自分に焦点を当て、新しい生活の枠組みを通しシラフを保つと共に、自分の人生や生活を立て直す必要があり、そのためにできることがあると気づいていきます。*直接入所して行なう場合もあります。 |
第2段階:自己成長 (治療共同体)
様々なツールやプログラムが張り巡らされた小さな模擬社会の中で、これまでの生き方や過去が現在に与えている影響などより深いレベルの洞察と変化を促進しつつ、社会復帰のための準備やトレーニングをしていきます。 |
第3段階:社会復帰 (通所センター)
家族関係、社会的関係、仕事、余暇、健康など、あらゆるレベルで自立・自律していくことが目的です。自分の人生プロジェクトを進めながら、再発を予防し、シラフの生活を発展、安定させていきます。 |
各段階では、それぞれ次のような取り組む課題と治療目標が設定されています。
・行動やコミュニケーションのスキル
・感情を感じ表現する力
・セルフエスティーム、自己効力感の向上
・意思決定、問題解決、目標設定
・ストレスや欲求不満に耐える力
・成熟した形でのニーズの要求
・自分の行動と結果を引き受ける力
・社会の一員であるという感覚
・薬物を使わないネットワークの構築、など
*プロジェクト・オンブレ・バレアレス支部が2006年~2009年に実施したプログラム修了後6ヵ月~2年以上の元利用者の追跡調査(*1)では、修了後に感じたスキルの変化として、79.5%が問題解決能力、78.1%が対人関係能力を挙げています。 (*1)Bonet.X.:Estudio de seguimiento de las altas terapéuticas en Proyecto Hombre Baleares 2006-2009. Revista Proyecto. No74 22-28.2010
スペインでは、合成麻薬やコカインの乱用が広がった2000年代から、利用者のプロフィールが変わってきました。それまでのヘロイン依存者と違い、家庭や仕事を保っている人が多かったため、入所プロセスのあるベーシックプログラムの他に、コカイン使用者に向けた通所プログラムが続々と開設されました。リハビリをするためには必ずしも入所が必要なわけではなく、治療だけに専念する必要もありません。家庭や仕事を持ちながら、治療プログラムに通うことができます。週1~3日のグループダイナミクスを活用したワーク(主に夜間に実施)とカウンセリングによって、生活を立て直していきます。コカインプログラムでは、意思決定、問題解決、不安や焦燥のコントロール、感情のスキル、再発予防に介入していくほか、家族トレーニングも行ないます。
思春期の薬物使用は、成人の使用とは異なります。プロジェクト・オンブレでは、3つのレベルの予防を行なっています。こうした予防の考え方ははNIDA:米国薬物依存国立研究所でも提唱され、欧米では広く普及しています。このほか成人向け予防としては、EAPも行なっています。
ユニバーサル予防
一般予防(例:学校教育など)
*プログラム『Juego de llave』 (生徒・教師・親) |
セレクティブ予防
薬物を使用する危険が高い層や年齢に向けた予防
*プログラム『Rompe cabeza』 *プログラム『A tiempo』(親) |
インディケート予防
すでに薬物使用経験があるなど薬物使用者になる危険が高い人に向けた予防。プロジェクト・オンブレでは家族トレーニングにも力を入れています。
*思春期プログラム(本人・親) |
*プロジェクト・オンブレの「ユニバーサル予防」と「セレクティブ予防」は、「地域予防」というスタイルをとっています。地域に薬物の問題があれば、それはその人(子)だけでなく地域の問題であるという考え方に基づき、単にプログラムを提供するだけでなく地域の人が自ら予防を行なえるようサポートしていきます。たとえばプログラム『Juego de llave』では、プロジェクト・オンブレの予防セラピストが実施者(教師など)や親に向たセミナーを行なうだけでなく、オンライン上で実施者をトレーニングし、継続して予防ができるシステムになっています。
*予防と未成年治療共同体についてはブログでも紹介しています。→第15回 ヨーロッパ治療共同体会議に参加してきました!(3)へ
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